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広島高等裁判所 昭和45年(ネ)216号 判決

控訴人(反訴被告) 桶辰商事株式会社

被控訴人(反訴原告) 関門家具工業株式会社

被控訴人(反訴原告)補助参加人 河内山季雄 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人(反訴原告)の反訴請求を却下する。

当審における訴訟費用中、控訴に関する部分は、控訴人(反訴被告)の、反訴に関する部分は、被控訴人(反訴原告)の各負担とする。

事実

控訴人(反訴被告、以人単に控訴人という。)代理人は、「原判決を取消す。山口地方裁判所下関支部昭和四一年(ケ)第六号不動産競売事件において、別紙目録記載の昭和四二年三月二八日付同裁判所作成の配当表中、控訴人の配当額は一二一万〇八一六円であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(反訴原告)関門家具工業株式会社(以下単に被控訴人という。)およびその余の被控訴人(反訴原告)補助参加人(以下単に補助参加人とその名称を記載する。)らの負担とする。」との判決を求め、反訴請求につき、「第一次的に反訴請求を却下する。第二次的に反訴請求を棄却する。訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、反訴請求として、「前記の配当表のうち、原審脱退被告有限会社山陽新建材(以下単に山陽新建材という。)に対する部分を取消す。訴訟費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同様であるから、これを引用する。

第一、被控訴人らの主張

(反訴請求原因)

(1)  山口地方裁判所下関支部昭和四一年(ケ)第六号不動産任意競売事件において、補助参加人河内山所有の下関市大字武久字小汐入第四五七番六所在宅地二五〇坪(以下本件土地という。)は昭和四二年二月一〇日代金一八六万円で競落されたが、前記裁判所が昭和四二年三月二八日作成した右競売代金の配当表には、被控訴人に対する山陽新建材ら各債権者は別紙配当表中債権額欄記載のとおりの各債権を有し、かつ同表中配当額欄記載のとおりの各配当を受ける旨の記載がある。

(2)(イ)  ところで、山陽新建材は、昭和四〇年七月三一日訴外有限会社大和林産(以下単に大和林産という。)から、昭和三四年一月一四日設定登記された極度額一五〇万円の第二順位の根抵当権を譲り受けたが、前記配当手続では右根抵当権にもとづいてその被担保債権元本残額一三四万五三四九円(債務者、被控訴人)の配当要求をし、それに基づいて別記配当表が作成されたものである。

(ロ)  しかしながら、右根抵当権は、山陽新建材が譲り受けた当時すでに被担保債権の完済により消滅していた。即ち、大和林産は被控訴人に対し、昭和四〇年三月二〇日到達の内容証明郵便により、被控訴人の債務不履行を理由に、前記根抵当権設定契約の基本関係である右両者間の昭和三四年一月一三日付商取引契約を解除する旨の意思表示をした。その結果、被控訴人関門家具は、大和林産に対し九七万〇三七八円の確定債務を負うに至つたが、昭和三七年八月一〇日までに右債務を完済したから、前記根抵当権もまた同日消滅するに至つた。

(ハ)  仮に、本件根抵当権が消滅しなかつたとしても、大和林産は右根抵当権の譲渡を被控訴人に通知したこともなく、また、被控訴人がこれを承諾したこともないから、右譲渡を被控訴人に対抗できない。

(3)  そして、控訴人は昭和四二年一一月二九日山陽新建材から前記の配当金請求権を譲り受け、右権利を有する旨主張するので、被控訴人は、反訴として、本件配当表中山陽新建材に対する部分を取消す旨の判決を求める。

第二、控訴人の主張

一、原判決には訴訟手続の違背がある。すなわち、原審では、当初被控訴人が山陽新建材を被告として本件配当異議訴訟を提起したが、その継続中控訴人が右被告の配当金請求権を取得したとして右訴訟に引受参加し、右被告が右訴訟から脱退した。ところで原判決は、控訴人が参加人として被控訴人に対して求めた本件配当金請求についてのみ判断しているが、控訴人は前記の参加により被告である山陽新建材の訴訟上の地位を承継しており、被控訴人の右被告に対する配当異議請求は控訴人との間で存続しているのであるから、右請求についての判断を遺脱した原判決は違法たるを免れない。

二、反訴請求に対する本案前の主張

担保物件の所有者ではなく、単なる債務者である被控訴人は本件配当に対し異議を申立てる利益を有しないから、本件反訴は失当として却下を免れない。すなわち、任意競売の対象物件の所有者は、正当な配当権利者に配当して残金がある場合には、その残金を受領する権利があるから、売得金が正当に配分されることについて法律上の利害関係を有するということができるが、所有者でない債務者にはそのような権利はないから、法律上の利害関係を有するとはいえない。

三、反訴請求原因に対する答弁

反訴請求原因中、(1) 、(2) の(イ)の各事実および(3) の控訴人が山陽新建材からその配当金請求権を譲り受けた事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、まず、控訴人の原判決の訴訟手続違背の主張について判断する。

本件の経過をみると、当裁判所が差し戻す以前の原審において原告(被控訴人)と被告(山陽新建材)との間に本件配当異議の訴訟が係属中、参加人(控訴人)が被告からその異議の対象とされている配当金請求権を譲り受けたとして「訴訟引受参加の申立」をし、これに伴い被告が原告の承諾を得たうえ右訴訟から脱退したこと、しかるに差戻前の原審は原告(被控訴人)と参加人(控訴人)との間で原告の訴を却下する旨の判決をしたため、これに対する控訴につき当審は、右の申立は係属中の訴訟に第三者が自ら加入しようとするものであるから、民訴法第七三条、第七一条の参加の申立であつて、同法第七四条による訴訟引受の申立ではないと解すべきであるから、右参加をなした控訴人は従前の被告の地位を承継するものではなく、従つて前記のように被告が適法に脱退した以上、従前の原、被告間の前記請求は審判の対象とはなり得ず、審判の対象となるべきものは参加人の請求であるとして、破棄差戻の判決をなし、右判決が確定したことは記録上明らかである。そうすると、右差戻判決の趣旨に従い、参加人である控訴人が被控訴人に対して申立てた本件配当金確認請求についてのみ判断した原判決に所論のような違法を認める余地なく、本主張は理由がない。

二、当裁判所も、また、控訴人の本訴配当金確認請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は左記のとおり付加するほか、原判決の理由中に説示するとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決六枚目裏二行と同三行の間に「なお当審証人佐々木信夫の証言中には昭和三七年八月一〇日には被控訴人の大和林産に対する債務は完済されておらず、なお約二〇万円の債務が残存していた旨の供述部分があるが、原審における被控訴人代表者本人の供述およびこれにより真正に成立したものと認める甲第三号証、原本の存在および成立に争いのない甲第五号証と対比すると措信できない。」と加える。

(2)  原判決六枚目裏六行「判断するに、」の次に「成立に争いのない乙第一三号証によれば、前記認定のように本件根抵当権が昭和三七年八月一〇日被担保債権の消滅により消滅した後もその設定登記が抹消されず、その間に、山陽新建材が大和林産から右根抵当権を譲り受けたことが認められるけれども、原審における被控訴人代表者本人の供述によつて認められる被控訴人代表者の河内山季雄が根抵当権者であつた大和林産に対して右設定登記の抹消登記手続をするように幾度か請求したがこれに応じなかつたために右登記が抹消されなかつたとの事情も考慮すると、右登記を抹消しなかつたこと自体は、被控訴人が本件根抵当権の消滅を主張するのを妨げる事情となるものではない。また、控訴人は、山陽新建材が大和林産から本件根抵当権の譲渡を受ける際、被控訴人が事前に右譲渡を承諾していた旨主張し、原審証人大高栄一、原審(第一回)および当審証人佐々木信夫の証言中には右主張に符合する部分があるが、これらは原審における右佐々木証人(第二回)および被控訴人本人の供述と対比して措信できずかえつて右本人の供述によれば、被控訴人は根抵当権の譲渡ではなく、新たに抵当権を設定することを承諾していたのにすぎないことが認められる。そして、他に」を挿入する。

三、被控訴人の反訴請求についての判断

本件反訴請求は、補助参加人河内山所有の本件土地を対象とする任意競売事件において、配当受取人に加えられた山陽新建材の根抵当権の不存在を、その債務者である被控訴人が主張した配当異議訴訟である。

ところで、抵当権の実行による不動産競売手続においても、配当表が作成された場合は、民訴法の規定を準用して配当表に対する異議の訴訟を提起し得るものと解すべきであり、民訴法第六九八条によれば不動産に対する強制競売手続においては、債務者は配当期日において各債権者の債権又はその順位について異議申立をするとともに配当異議訴訟を提起し得るものと解せられるが、抵当権の実行による競売手続は、特定の担保物を競売しその売得金により物上担保権を有する債権者に優先的満足を得させることを目的とする手続であつて、本件における競売物件は債務者である被控訴人の責任財産に属さない補助参加人河内山所有の不動産であるから、右売得金の受取人とされた者の担保権の存否自体について法律上の利害関係を有する者は、右所有者であつて、単なる債務者である被控訴人はこれに含まれず、被控訴人は、山陽新建材の本件根抵当権の存在を争い、その配当受領に異議を申し立て前記法条による訴を提起する利益を有しないものと解すべきであつて、本件反訴請求は不適法として却下を免れない。

また、原審において被控訴人は山陽新建材に対し本件反訴と同様の配当異議訴訟を提起していたところ、前記のように控訴人から引受参加の申立があつたため、山陽新建材が右訴訟から被控訴人の承諾を得て昭和四三年九月三日に脱退し、その後二年以上を経過した当審において反訴として前記異議訴訟を提起したことが記録上明らかであるから、前記のように控訴人は山陽新建材の被告としての地位を当然に承継するものではない以上、被控訴人と山陽新建材の前記訴訟は前記脱退の時点で終了したものといわなければならない。従つて、仮に被控訴人が債務者として、前記配当異議訴訟を提起する利益を有するとしても本件反訴の提起は、右訴訟の提起期間(民訴法第六九八条、第六九七条、第六三三条の準用により配当期日より七日間)を経過したものであつて、競売裁判所がなす配当実施を停止する効果はないから、右形式の本訴を維持する利益はないものといわなければならない。

以上のとおり、被控訴人の本件反訴は、いずれにしてもその利益を欠くものとして却下を免れない。

四、よつて、控訴人の本件配当金確認請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、本件反訴は却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 森川憲明 大石貢二)

別紙 配当表(抄)〈省略〉

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